「0.99の法則」は本当か?子どもに教えてはいけない数学的な理由【出所不明】

「0.99の法則」は本当か?子どもに教えてはいけない数学的な理由【出所不明】

1.01の法則:1.01365 = 37.8(こつこつ努力すればやがて大きな力になります)

0.99の法則:0.99365 = 0.03(逆に、少しずつさぼれば、やがて力がなくなります)

この学校や塾、さらには経営者の間で頻繁に引用されてきた「1.01の法則」「0.99の法則」。

私はこの話を初めて聞いた頃から、どこか飲み込めない違和感を覚えていた。特に「0.99」の方がどうにも腑に落ちない。

最近、0.99関係で縁があり、この”法則”を改めて調べ直した。
そこで今回、この法則は何がおかしいのか?本当に正しいと言えるのか?を解説する。

【解説】0.99を毎日掛け続けるモデルは正しいのか?

まず、0.99を「1%怠ける」という意味で使うこと自体は問題ないが、この0.99を毎日累乗すると途端に現実からズレおかしくなる。

なぜなら0.99を掛け続けるということは、いつもより弱い自分が更に指数関数的に弱くなっていき続けることを指すからだ。

例えば学校の就業年数3年間(1095日)で計算してみると、この不自然さがより明確になる。

0.99^1095 = 0.000017

なわけない。1日1%怠けた程度で、3年後に10万分の1の能力になるはずがない。

よくある「間違った解釈」

調査して気づいたのは、多くの人がこのモデルについて間違った解釈をしていることだ。

例えば「1年で3%だから10年で30%下がる」という解釈。これは線形計算であり誤り。正しくは0.99^3650日で0.000000000000000117(ほぼゼロ)。

他にも「0.03を1.03として3%上昇」という話。0.99は1を下回る以上、何回掛けても絶対にプラスになることはない。正しくは97%減少。

グラフ化すると違和感がより明確化

という解説をしてきたものの、数字だけだと「何を言っているんだ」と掴めない人もいるだろう。実際、私も直感的に理解できているわけではないため、実際にグラフにしてみた。

累乗回数が増えるほど急速に減衰していき、曲線を描く。

特に注目すべきは69日目。わずか2ヶ月弱で0.5になってしまう。これは言い換えると2ヶ月弱で50%減少し半分のパフォーマンスになるということだ。

【出所不明】0.99の法則の正体に迫る

では、このおかしな「法則」を言い出したのは誰なのか?

最も引用されているのは楽天グループの三木谷浩史氏の著書『成功のコンセプト(幻冬舎文庫、2007年)』だ。

原文は正しいことを祈って、この書籍を実際に購入して読んでみると、記述はこうだった。

たとえ毎日1%の改善でも、1年続ければ37倍になる。1.01の365乗は37.8になるからだ。これは、1人の人間の話だけれど、組織として考えればもっと大きなことが起きる。

仕事というのは、複雑になればなるほど相反する要素が絡み合ってくるものだから、計算通りにはいかないのが現実なのだ。

「成功のコンセプト」53-54ページより一部抜粋

その結果、0.99の法則に関する記述は一切確認できなかった。そもそも、この書籍のなかで、「法則」という文言すら記述されておらず、1.01に関しても組織の成果に絡めて「1.01の努力って続けると凄い、だが現実では色々と難しいよね、でも本当に凄いよね」というような記述だった。

では、この間違った法則を言い出したのは誰なのか?私たちがよく見るあの画像はどこが出典なのか?

ここからは徹底調査記事となる。

2012年のFacebookで拡散されたのが元々

徹底調査の結果、元々の発火点は2012年にFacebookで拡散された投稿だった。

勝山小学校の校長室で貼られていたポスター写真が拡散され、その後ネット上で独り歩きを始めた。

そして2013年前後のTwitter・掲示板で「三木谷氏の話」と紐付けられ始める。

Deep Researchによる調査結果

とはいっても、0.99の法則の出所そのものは依然として不明であり、なぜ三木谷氏の話と結び付けられ始めたのかについても明確な理由が見えてこない。そこで、ChatGPTのDeep Researchを使い、より深く調べてみた。

その結果、最古の文献として有力なのが、2012年11月初版の『関大法科大学院再生物語』である。ここに興味深い記述が見つかった。

(尾島) 最後に、新入生に対して、何かメッセージがあればお願いします。

(大住) 最近聞いた話で、非常に感銘を受けたのが、楽天の三木谷社長が仰られたという1.01と 0.99の法則。1.01を365乗すれば37.8になるが、0.99を365乗すると0.03になってしまうそうです。この話は、実は年始に私が兄弁から教えてもらった話で、自戒も込めてお話するのですが、毎日他の受験生よりほんの少しずつでいいので余計に努力していけば、2 年ないし 3 年の積み重ねは非常に大きなものになり、反対に、他の受験生よりほんのちょっとずつサボっていると、2 年ないし 3 年後には取り返しのつかないことになってしまいます。(以下略)

別冊 REVIBLE 合格体験記編 ~関大法科大学院再生物語~ /関大法曹会 157ページより引用

ここで引用されているのは「兄弁(先輩の弁護士)から聞いた話」であり、彼自身が2012年の年始に耳にしたものだという。このタイミングは、Facebook上で「勝山小学校のポスター写真」が拡散され始めた2012年前後と一致する。

「これはきた!」と思い、さらに2011年以前をGoogle検索で徹底的に調べてみたが、驚くほど痕跡がない。先ほどの三木谷氏の「成功の秘訣」書籍が2007年に発行されていたにも関わらず、だ。

以上を踏まえると、次の推察が最適解であろう。

0.99の法則は出所が曖昧なまま
SNS → まとめサイト → 誤解拡散
という流れで成立してしまった”ネット由来の疑似法則”

ちなみに残念ながら、拡散の発火点とされる勝山小学校については、それ以上の情報をつかむことができなかった。無念。

もし何か有力な情報をご存じの方がいれば、お問い合わせより送信していただけると非常に嬉しい。数学的観点からの指摘や本記事への反論も大歓迎だ。

とはいえ、10年以上にわたり、この法則が「三木谷さん発」という形で(本人が言ってもいないのにもかかかわらず)勝手に権威づけされ、教育現場で”教訓”のように扱われているのは流石にどうなのかという気はする。加えて、この法則に対する一般的な批判として「人間のパフォーマンスは日によって違うだろ」という表面的な指摘がされているケースが多いのも気になる。本質的な問題として「そもそも累乗がおかしい」という前提に踏み込む議論がないのがなんだかなという次第。